【死亡事故はなぜ起きた?】熱中症による労災死亡事例を徹底分析|再発防止のためにできることは
「まさか自社で熱中症による死亡事故が起きるとは…」。毎年、暑さが厳しくなる中で、企業の現場では熱中症による労働災害が後を絶ちません。厚生労働省の報告では、建設業や製造業を中心に熱中症による死亡者が多数発生しています。「WBGT 対策」や「暑熱順化」の不徹底、「異変の見逃し」などが命を左右する結果となっているのです。
死亡事故に学ぶ
労働災害としての熱中症の実態厚生労働省のデータによると、2013年〜2022年の間に熱中症により業務上の死傷者は7,000人以上、うち建設業では92人が死亡しており、業種別で最多です。以下は実際に起きた2つの死亡事例です。
【事例1:建設現場での過信と孤立が招いた死】
夏の炎天下、建設現場で働いていた60代男性作業員は、午前中から「少し疲れている」と周囲に漏らしていました。しかし特段の異常行動もなかったため、昼休みに「クーラーの効いた車内でひとり休ませる」対応が取られました。その後、様子を見に行った同僚が発見したときには意識不明。体温は高く、すでに命を落としていました。“ひとり休憩”は安全な措置ではなく、結果的に誰にも異変が察知されないまま重症化を招いた典型例です。
【事例2:工場内の“軽作業”でも命を落とす】
屋内の製造現場で50代男性作業員が倒れ、死亡したケースでは、炉の近くでの軽作業であったため危険性の認識が薄く、WBGTの測定も行われていませんでした。本人に持病があり、体調も万全ではなかった可能性が高かったにもかかわらず、「通常通り」で業務を続行。気づいた時にはすでに意識を失っており、救急搬送も間に合いませんでした。高温環境下での持病持ち従業員への配慮不足と環境測定の未実施が事故につながった典型例です。
これらの事例から分かるのは、「異常の兆候の見逃し」と「その場しのぎの対応」が命取りになるという事実です。
命を守る現場対応:“やってはいけない行動”が命取りになる
熱中症の現場対応では、「間違った行動」が命に直結します。以下は、厚生労働省のガイドでも警告されている**“絶対に避けるべき対応”**と、正しい応急処置の比較です。
■やってはいけない行動(実際に死亡事故に至った例あり)
- 「クーラー車内でひとり休ませた」
→ 周囲から隔離され、異変に気づけず重症化 - 「意識はあるから大丈夫」と判断して放置
→ 短時間で意識障害に至るリスクあり - 「汗をかいているから問題ない」
→ 重症例では汗が出ない場合もあるため、判断材料として不十分 - 「様子を見る」「休ませてから考える」
→ 先送りは判断ミス。すぐに対応が原則
■正しい現場対応(厚労省が推奨)
- 作業を即時中止し、119番通報
- 作業着を脱がせ、水をかけて全身冷却(急速冷却)
- 日陰または涼しい場所に移動させ、体温を下げる行動を最優先
- 同僚や管理者が常に見守る体制を維持
■ポイント
「ひとまず様子を見よう」が、最も危険な判断です。初期症状の段階で確実な対応を行えば、防げた死亡事故は少なくありません。
法令遵守の視点から:企業の熱中症対策に求められる管理責任
- 労働安全衛生法の第66条、第71条に基づく温湿度管理の義務
- 「WBGT 指数の測定・対応」などの体制整備は必須
- 安全配慮義務違反により「企業が罰金」や「訴訟」リスクも
熱中症は予防できる:企業が今すぐ始めるべき5つの対策
- 暑熱順化の計画的実施(初夏前からの汗をかく習慣化)
- WBGTに基づく作業管理(超過レベルに応じた休憩時間)
- 水分・塩分補給の徹底(塩分タブレット・経口補水液の活用)
- ファン付き作業服などの予防対策グッズ支給
- 異常の兆候を共有できる体制整備(声かけルール・応急手当訓練)
制度・現場・教育の三位一体での整備
熱中症による労働災害は、決して「不運な事故」ではありません。多くは予防可能であり、企業が「見て見ぬふり」をしない管理体制を築くことで防げる命ばかりです。今回ご紹介した事例と対策をもとに、今一度、御社の熱中症対策を見直してみてください。万が一を防ぐために、制度・現場・教育の三位一体での整備が不可欠です。
引用として: 令和6年「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」